はじめに

 オーディオ好きの方、オーディオに少し興味のある音楽好きの方、インテリアの中のオーディオに興味のある方など、色々な方に興味を持っていただき、気に入って下さった方にスピーカーを購入していただきたいので、私の考えを出来るだけ専門用語を使わず書きます。


オーディオ装置の移り変わり

 三十年弱で世の中のオーディオ装置の音源は、レコードプレーヤーからデジタル機器に大きく変わりました。オーディオ装置の接続例と特徴を下に表します。

 **昔の標準的な装置**

レコードプレーヤー → イコライザー → プリアンプ → パワーアンプ → スピーカー → 部屋

 **現代の標準的な装置**

CDやMP3などのデジタル機器 → パワーアンプ → スピーカー → 部屋

 昔の標準的な装置では、レコード盤の溝とレコードプレーヤーの針から生まれる微小な振動を電気信号に変換し、イコライザーで慎重に補正し、プリアンプやパワーアンプで電圧や電流を増幅し、スピーカーを駆動して振動板で部屋の空気を振動させることによって、音楽を耳に届けていました。特徴的なのは、レコードプレーヤーとイコライザーの重要性であり、手の抜けない部分でした。

 対して、現代の標準的な装置では、ある程度のデジタル機器であれば概ね良い音で、デジタル機器の出力は十分な大きさの電圧になっているので、装置の数が少なくて済みます。重要なのは、まず部屋に合わせてスピーカーとパワーアンプのペアを選ぶことです。デジタル機器のグレードアップは後回しで、とりあえず携帯プレーヤーをつなげば良いでしょう。

 これから本格的なオーディオを手に入れて音楽を楽しみたい方は、私のスピーカーでなくてもよいので、スピーカーとパワーアンプがセパレートしているものを購入してみましょう。同じ曲でも、ヘッドホンで聴くのとは違う感動や発見があるはずです。


家庭用と公共用の違い

 オーディオ装置を大きく2つに分類すると、少人数で音楽を楽しむ家庭用と、屋外やホールで聴衆に均等に音楽を届ける公共用になると考えています。主な特徴を下に表します。

 **家庭用**
 家庭用は数ワットのパワーアンプとスピーカーがあれば、十分な音量で音楽を楽しめますし、ご近所への音漏れも気になりますので、クラブやライブハウスのような大音量は禁物です。また、リスナーとスピーカーの距離が近いので、部屋の反射音を利用してリスニングポジションにあまり関係なく自然な音を聴かせる、指向性の弱いタイプのスピーカーをお勧めします。音楽を楽しむ為には、気軽に良い音ということも重要です。

 **公共用**
 公共用は数百ワットのパワーアンプとスピーカーを複数用いて、指向、周波数、時間の特性などを、音楽ジャンル、聴衆の分布、気候条件などに合わせて制御する場合もあり、セッティングに手間がかかっています。とにかく大きな音を効率よく出す必要がありますので、公共専用に設計されたスピーカーやパワーアンプを使用します。聴衆に為にプロの方々が全力でサポートしています。

 パワーアンプやスピーカーのワット数表示やサイズが大きい方が高音質というように誤解されている方や広告を見かけますが、そうではありません。公共用のスピーカーやパワーアンプを家庭に持ち込んで、ご近所を気にして数ワットのパワーで鳴らしていても、良い結果は得られません。また、ご近所を無視して大音量で鳴らすと、部屋の各所がガタガタ振動を始め、冷蔵庫のように大きなボーカルの顔が、脳内にイメージされるでしょう。広い部屋を大補強し、気合を入れて音楽を聴く、深い趣味の世界もありますが、まずは小型の家庭用を選んで下さい。


音響特性の癖と個性について

 **オーディオ装置の場合**
 オーディオ装置の音響特性には、基本的に癖も個性も必要ありません。癖が付く例を下に表します。

・スピーカーに奇抜な低音域増強方式を用いて、他の音域に強い癖が付き、対処療法でどんどんひどくなっていくことがあります。対処療法とは、例えば、元の音楽信号を専用装置で上げ下げしたり、理論とかけ離れた吸音材をスピーカーに入れたりすることです。

・世の中の多くのスピーカーは、複数のスピーカーユニットを用いて低音域と高音域を分担させることで、より広い周波数領域を低歪で再生させようとしています。それぞれの音域に個性の異なるスピーカーユニットを用いますので、分担の境目で個性がぶつかり合い、癖の強いスピーカーになることがあります。その癖を見越して、元の音楽信号に専用装置で演算処理を加えることもありますが、すべての音楽信号や部屋の特性を見越すことは難しく、特定の条件でひょっこり癖が現れることがあります。もぐら叩きのようです。CDなどの音楽ソースの解析、部屋やスピーカーのリアルタイム解析を簡単に行うことが出来る技術が開発されれば、癖は消えていくでしょう。

・最新のスピーカーと昔の真空管アンプを用いて、夢のコラボレーションをしても、多くの場合、歪が多く低音域が不自然に強調された癖の強いものとなります。真空管アンプには、昔のスピーカーとレコードが合う、というと感覚的な話にきこえますが、設計として理にかなっています。もちろん古いオーディオ装置が当時の良い状態を保っていることは珍しいので、道のりは険しく、これも深い趣味の世界です。

 **楽器の場合**
 楽器は個性のかたまりです。癖も時には個性になります。個性の例を下に表します。

・ピアノやバイオリンは、ひと目でそれとわかる個性的な造形をしています。これは、愛着を持って大切に使ってもらう為の装飾的な意味合いもありますが、弦の強烈な張力に耐えながら、音の高低、大小があっても、効率よく且つ不快な音を抑えながら各所が共鳴し、統一された個性的な音を発する為の形といえます。

・人間も声帯を振動させ体(主に頭部)を共鳴させる、アコースティック楽器と考えることが出来ます。人間の声は性別で音の高さが異なり、個人の間で個性が異なります。

・エレキギターは、シールド(配線のこと)を使ってエフェクター(信号加工機)やギターアンプ(プリメインアンプとスピーカー)に接続されます。シールドには癖がありますし、エフェクターは音を歪ませたり揺らしたりする個性を持っており、ギターアンプにも個性があります。また、それぞれの機器は互いに干渉しやすく、組み合わせによって癖が生まれます。これら癖や個性を含めて、全体が楽器と言えます。真空管式のビンテージアンプや録音機材を用い、バスドラムに毛布を詰めるのも、ミュージシャンの創作活動の重要な部分と考えられます。

 オーディオ装置の音響特性に癖や個性があると、色々な楽器やミュージシャンの個性が詰まった音楽を家庭で再現することの邪魔になります。例えば、アコーステック楽器の共鳴構造を安易に模したスピーカーがあれば、余計な癖を感じるでしょう。私は音響特性に無個性を求め、どうしても理論、試聴上、癖として残る場合は、人間の耳の構造に対して違和感のない方向に落とし込みます。


人間の耳について

 音楽信号は、周波数が異なる複数の正弦波で構成され、それぞれの振幅が時間的に変化するものといえます。人間の耳は、それぞれの正弦波の振幅変化を観察し、脳にリアルタイムで報告し続けています。脳は左右の耳からの報告を受けて、過去の経験やそれに基づく想像の信号パターンと比較することで、例えばピアノとベースとボーカルのAさんがどのような配置で、どのような場所で演奏していて、聴衆がどの程度居るのか?ということが瞬時にわかってしまいます。
 また、過去の信号パターンに対して一箇所が大きく異なる場合と、全体的に徐々に異なっている場合で、脳は前者に不自然さを強く感じるはずです。前者のようなことが起こる例を下に表します。

・スピーカーボックス内外の不要な共鳴

・低音域と高音域を分担するスピーカーユニットのつなぎ目の問題

・電子回路の電気的共振

・CDなどのサンプリング音源の安易な処理。CDを作る際には、録音した音楽信号に含まれている超高音域の正弦波を排除しないと、録音した音楽信号には無かった嘘の正弦波を足してCDに記録してしまいます。よって、超高音域の排除が必須なのですが、それらの正弦波を安易に排除すると、例えばバイオリンのよう超高音域まで豊かに正弦波(倍音成分)が含まれている音の信号パターンが大きく変化してしまい、違和感が生まれます。

 CDやMP3音源を再生するのであれば、複数のスピーカーユニットに分担させて超高音域まで再生可能ではあるが、つなぎ目に癖の残るスピーカーよりも、1つのスピーカーユニットのみで構成し、滑らかに高音域が弱まる癖を残したスピーカーの方が、違和感の少ない音楽的な再生が可能であると、私は考えています。

 良いオーディオ装置を使用して、優れた録音物を再生すると、例えば、イギリスのバーでグラスと氷のぶつかる音にハッとしながら、エルビスコステロ達の演奏を目の前で聴いている、そんな気分に浸ることができます。


私について

 私は趣味を仕事にする傾向があります。オーディオの探求は小学生に始まり、スピーカー、アンプ、電子楽器など作っては部品に分解し、再利用してまた作り、大人の集うオーディオショップに通い、専門誌を発売日に購入して何度も読み返し、自分のリスニングルームを持つことに憧れていました。

 その後、趣味を極める為に大学の音響研究室に進み、DSP(高速な計算機)を用いた、マイクやスピーカーの指向性制御や消音を学びました。就職も音響機器メーカーと考えていましたが、残念ながら技術職の求人が無く、同じく小学生からの趣味である、自転車の部品の会社に就職し、色々な研究開発を担当させてもらいました。

 2004年、新たな創作活動の為に退社し、オーディオの研究開発を開始しました。また、エンジニアリングとデザインの融合を目指す創作活動も並行して進めました。

 2009年、初めて出展したリビングデザインに関する展示会で、音楽好きの方々に褒めていただいたことから、2010年は少し販売してみようと考えました。


                                          2010年8月22日 宇野公二